ストレスとうまく付き合う
ストレスと不妊
ストレスが妊娠に影響するメカニズム
私たちがストレスを感じたり、それに反応を起こすとき、その主役は"脳"にあります。イヤなことや辛いことなどがあった場合、脳はカラダに「ストレスと闘ったり、逃げたりするための体勢をとって!」と指令を送ります。
強いストレス状態に長時間さらされると、脳の視床下部はその状態からカラダを守るための対応に追われます。この視床下部は、排卵や妊娠にかかわる生殖ホルモンの司令塔でもあります。
脳がストレス対応に追われると、生殖ホルモン分泌の司令まで手が回らなくなります。すると、ホルモン分泌のバランスが崩れて、月経が遅れるといった排卵障害を招く原因につながるのです。
ストレスと妊娠率や治療成績との関係
ストレスが妊娠の成立やその継続に、どんな影響を及ぼすかは、これまで国内外でさまざまな研究が行われています。それによると、ストレスが及ぼす影響については、なかなか一筋縄ではいかないことがわかります。●ストレスが妊娠の確率を低下させる可能性
NIH(アメリカ国立衛生研究所)の研究者は、妊娠を望む18〜40歳の274人の女性に、月経周期6日目に唾液中のストレスマーカー物質を測定し、その後、妊娠の有無を6周期にわたり調査しました。それによると、ストレスの目安とされる物質「アルファミラーゼ」の濃度が高いほど、妊娠率が低くなることが明らかになりました。アルファミラーゼの濃度により4グループに分け、年齢など妊娠率に影響を及ぼす要因を排除した結果、最も濃度が高かったグループは、最も低かったグループに比べて12%妊娠率が低下したという結果だったのです。このことから、研究グループは「ストレスは妊娠しづらくさせる可能性がある」と結論づけています。(*1)
●ストレスと治療成績は関係しない可能性
一方、体外受精の治療開始前のストレスレベルは、その周期の治療成績と関係しないことがイギリスの研究で明らかになっています。イギリス・カーディフ大学の研究グループは、これまでに実施された3,583組のカップルを対象にした14の研究データを統合・解析して、治療前のストレスが体外受精の治療成績にどのように影響を及ぼすのか調査しました。それによると、体外受精の治療開始前のストレスレベルは、その周期の治療成績と相関関係が見られなかった、という結果に。(*2)
このように、ストレスと治療成績について、相関関係を示唆する報告もあれば、なんの関連性も見出せない報告もあり、ストレスが私たちに及ぼす影響は一様ではありません。
なぜ、そのようなことが起こるのでしょうか?
おそらく、ストレスによる影響は、さまざまな要因によって左右されるからだと考えられます。また、同じストレスのかかる環境に置かれても、そのことでどんな影響を受けるかは、個人差がとても大きいということもあるのでしょう。
ストレスマネジメントという発想に切りかえる
ストレスをあらかじめ予防したり、ストレスをなくしたりするのは、非現実的です。それよりも、自分のストレスを自覚して、それと上手に付き合っていくほうが、よほど現実的といえます。つまり「ストレスをマネジメントする」という発想に切りかえるのです。
ストレスの原因になることについて、特に生殖に関しては、自分の力が及ぶとは限りません。
そうであれば、なおさら「自分自身がストレスに強くなって、多少のストレスに邪魔されないようになろう」と考えてみてはどうでしょう。簡単ではないでしょうが、現実的な方法とはいえます。
(*1)Stress reduces conception probabilities across the fertile window: evidence in support of relaxation Germaine M. Buck Louis,et al. Fertil Steril.2011 June;95(7):2184-2189
(*2)Emotional distress in infertile women and failure of assisted reproductive technologies: meta-analysis of prospective psychosocial studies J Boivin,et al. BMJ. 2011 Feb;342:d223.